「働き方改革」の先にあるもの

働き方改革 天野常彦

働き方改革の背景

 安倍政権が「働き方改革」を進めている理由として次のような項目が掲げられている。

1. 日本の人口、特に労働人口が継続して減少していること
2. 長時間労働、残業などの悪しき習慣が日本経済の生産性を低下させていること
  (これに伴う社会保障費の増加が国庫を圧迫している)
3. 働き方の多様性を認め、活力ある職場を作り、生産性を向上させること

 これらの背景には、日本の従来からある雇用形態を変えて、米国型の雇用形態に変えていこうとする政府の目論見がある。

何がどのように変わろうとしているのか

 政府は、日本の従来の雇用慣行である、「年功賃金」「終身雇用」「忠誠心型組織(残業や転勤は会社の指示に従う組織)」などから、欧米型の「スキル基準賃金」「非正規社員の拡大(業務に必要な人材を必要な時だけ雇用し、企業の負担を減らす)」「ジョブ型組織(職務の専門性を追求する組織)」に変更を急いでいる。

 「残業時間の上限」や、「同一労働同一賃金」など、働き方改革の施策は皆、米国型にシフトするためのステップと言える。

働き方改革の先にあるもの

 政府が米国型に大きく転換のかじを取り始めたのが、第一次安倍内閣(2006年)の頃と言われている。当時の日本は「デフレスパイラス」から抜け出せず、安定した経済の発展を見せる米国を見習う機運が高まり、第二次安倍内閣(2012年)に至って、高い政権支持率を背景に一気呵成に、様々な制度や政策が見直されている。

 しかし、最近の米国経済は決して順調とは言えない状況に陥った。トランプ大統領の出現こそ、米国民の社会への不満の表れだとも言われている。

 つまり、資本主義経済を支える米国型雇用を突き詰めると、一部の富める人々と、大多数の貧しい人々で構成される格差社会を作り出してしまうのである。

米国型雇用の課題

 「残業時間の上限」や「同一労働同一賃金」が実現し、様々な施策が打たれても、格差社会が作り出す様々な問題は、人々に今まで以上のストレスを与えることを米国社会が立証している。米国でのメンタルヘルス不調者は国民の1割を超え、貧困を原因とする犯罪や暴動は増加傾向に歯止めが掛けられない。

 この格差社会の根本的な原因に対峙せず、安易で表面的な対策を講じようとすれば、米国や他の一部の国で始まっている「保護主義政策」に偏っていく。

 そして国家間の主張が衝突すれば、経済的な対立はそのまま軍事的な衝突に繋がることは、歴史を振り返れば明らかである。

働き方改革の向かうべき方向は・・・

 働き方改革のメソッドは、≪働きやすい職場環境をつくる≫ → ≪生産性が向上する≫ → ≪企業競争力が向上する≫ → ≪消費が活性化され経済が安定する≫というものである。

 しかし、そもそも働きやすい職場とは、人それぞれに求めるものが異なる訳で、それらを実現する事は並大抵のことではない。

 例えば、残業時間の制限が設けられたからといって、働く人すべてが満足するわけではない。残業代が生活の支えとなっている人々も少なくないし、業務量が減らないまま就労時間が減らされれば、個人にかかる負荷やストレスはより大きなものとなるだろう。

長年にわたって培われた働き方を変えるのであれば、現場の事情や、人々の置かれた環境を勘案し、日本的な雇用慣行の良い部分は残しつつ、米国型雇用の取り入れるべき良い部分を厳選し、ハイブリッド的な制度の構築が必要である。

 「今までの日本的な働き方が悪い」だから「米国型にシフトする」という、まるで時計の振り子のように、盲目的に米国型の雇用形態に一気呵成に変えていくことは、労働者にとっては大きな負担となり、さらに日本も一気に格差社会に移行することの覚悟が必要である。

 我々が働き方改革を行うのであれば、現在の米国を反面教師として、格差社会を回避するための施策も同時に検討し実施することが、働き方改革の真の目的を実現する鍵であると考えている。

働き方改革 天野常彦
<執筆者紹介>
天野常彦

天野常彦

アーサーアンダーセン、プライスウォーターハウスクーパースにて経営管理ソリューションの責任者として執務、その後2006年からオリンパスソフトウェアテクノロジー社の社長を6年間務める。2012年より天野メンタルコンサルティング代表、2016年より一般社団法人 社労士サポート協会の代表理事。 主な著作に「メンタルサポートが会社を変えた!オリンパスソフトの奇跡」(共著/創元社)、「メンタルヘルス担当者奮闘記・ストーリーで解る正しい現場対応(日本法令)などがある。